犬の耳掃除は、やりすぎないことが基本
この記事の要点
犬の耳掃除は、汚れていないなら触らないほうがよい部位です。耳の構造、掃除が要る犬と要らない犬、洗浄液の使い方、綿棒を奥に入れてはいけない理由、動物病院へ相談する目安までを整理しました。垂れ耳の犬で気をつける点にも触れます。
犬の耳の構造
犬の耳を手入れするとき、最初に知っておきたいのは、人の耳と同じ感覚で中を掃除できる場所ではないということです。耳の入口から鼓膜まで続く外耳道は、まっすぐ奥へ伸びるのではなく、途中で下向きに曲がるL字型をしています。外から見える穴の先に、指や綿棒がそのまま届く構造ではありません。
耳の構造は、大きく耳介(耳たぶにあたる外側の部分)、外耳道、鼓膜に分けて考えると分かりやすいでしょう。外耳道の皮膚には耳垢腺などがあり、分泌物や皮膚の細胞を含む耳垢が作られます。少量の耳垢は、外から入り込むほこりを絡めたり、皮膚を守ったりする役割があります。耳垢があること自体を、すぐに不潔と判断する必要はありません。
犬が頭を振ると、外耳道の中にある分泌物や小さなごみが入口方向へ移動します。人が耳かきを頻繁にしなくても、耳の皮膚が少しずつ外へ向かって入れ替わるのと似た、自然な排出の仕組みです。この仕組みがあるため、見える範囲に汚れがない犬では、耳掃除をしないことがケアになる場合があります。
一方、綿棒を奥へ入れると、先端で汚れを水平部や曲がり角の先へ押し込むことがあります。強くこすれば外耳道の皮膚に細かな傷ができ、刺激と湿気が重なって炎症のきっかけになる可能性もあります。さらに、位置や力加減を誤ると鼓膜を傷つける危険があります。綿棒の細さは「奥まで届く便利さ」ではなく、「力が集中しやすい危うさ」と表裏一体です。
耳介を持ち上げたときに見える範囲と、外耳道の奥は別の場所です。家庭で確認するのは耳介の内側と耳の入口までにとどめ、奥を見ようとして器具を差し込まないようにします。耳の奥の状態を確かめるには、動物病院の耳鏡などが必要になることがあります。見えない場所まで家庭の掃除で解決しようとしないことが、耳を守る第一歩です。
また、犬は人よりも耳介を動かす筋肉が発達しており、耳を立てたり伏せたりすることで音の方向を探ります。耳介の内側に小さな傷ができると、犬が後ろ足で強くかく、家具にこすりつけることがあります。耳を掃除する人の手だけでなく、犬自身の動きでも傷が広がることがあるため、耳を確認したときは皮膚の状態と行動の両方を見ます。耳の入口を覗いても原因が見えないからといって、さらに器具を入れる理由にはなりません。
掃除が要る犬・要らない犬
犬の耳掃除は、全頭に同じ頻度で行うものではありません。耳介の内側が薄いピンク色で、強いにおいがなく、触っても嫌がらず、入口に目立つ分泌物がないなら、観察だけで済む犬もいます。健康な耳でも少量の薄い耳垢は出ますが、耳垢の色や量には個体差があります。毎週必ず洗浄する、という一律のルールを先に決めるより、耳の状態を見て判断するほうが現実的です。
垂れ耳の犬種は、耳介が外耳道の入口を覆いやすく、空気がこもりやすい傾向があります。ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、アメリカン・コッカー・スパニエルなどでは、耳の形や皮脂の量、体質が重なって外耳炎が起きやすいと指摘されます。ただし、垂れ耳だけが原因ではなく、立ち耳の犬にも外耳炎は起こります。犬種名だけで掃除の回数を決めるのではなく、その犬の耳の変化を記録しましょう。
耳垢が出やすい犬、皮脂が多い犬、過去に外耳炎を繰り返した犬では、獣医師から家庭でのケアを提案されることがあります。洗浄の頻度や使う製品は、分泌物の性質、鼓膜の状態、治療薬との組み合わせで変わります。病院で「週に何回」「どの量」「どこまで拭く」と具体的に教わった場合は、その指示を優先してください。
水遊びやシャンプーの後は、耳介の内側と入口を乾いたコットンや柔らかい布で押さえるように水分を取ります。耳の中へシャワーを当てたり、綿棒で水を吸い取ろうとしたりするのは避けます。水分が入ったように見える、犬が何度も頭を振る、急に耳を気にするという変化があれば、洗浄液を追加する前に動物病院へ相談すると安心です。水遊びのたびに強い洗浄をする必要があるとは限りません。
反対に、立ち耳で短い毛の犬でも、耳垢の量が多い、外耳道が狭い、皮膚の状態が変わりやすいなどの事情があればケアが必要です。見た目に通気がよさそうでも、耳の中の環境まで外から分かるわけではありません。犬種の特徴は目安として使い、個体差を優先します。子犬を迎えた時期には、耳掃除を始める前に健康診断で耳の状態を見てもらい、家庭でどこまで触ってよいかを確認しておくと、その後の判断がしやすくなります。

頻度をどう決めるか
頻度は「何日に一度」と固定するより、耳を観察する習慣から決めます。週に一度、明るい場所で左右の耳介を開き、色、におい、耳垢の量、触れたときの反応を同じ順番で見ます。散歩やシャンプーの直後だけでなく、落ち着いている時間に確認すると、普段との差に気づきやすくなります。スマートフォンで耳介の入口を撮影しておくと、数日後との比較にも役立ちます。
見た目がきれいで、においもなく、犬が気にしていないなら、洗浄液を入れる必要はありません。耳介の内側にほこりが付いている程度なら、湿らせたコットンで見える部分を一度なでるだけで十分なことがあります。犬によっては月に一度も洗浄しない一方、耳垢が多い犬では獣医師の管理のもとで週単位のケアが必要になるなど、幅があります。
毎日の耳掃除を習慣にすると、飼い主はきれいになった実感を得やすい反面、犬の外耳道は繰り返し触られて刺激を受けます。洗浄液の成分や水分が残ることもあり、過度な洗浄は外耳道の皮膚環境を乱すとされます。耳垢を取り切ろうとして何度もこするほどよい、とは言えません。掃除の翌日に赤み、乾燥、におい、かゆがる様子が増えたなら、回数や方法をいったん止めて相談します。
記録すると、頻度の調整が感覚頼みになりません。「4月12日は右だけ少量」「雨の散歩の翌日に入口が湿っていた」「洗浄後に頭を振る回数が増えた」のように、左右と日付を残します。耳の汚れが毎回同じ側に増える、一定の間隔でにおいが戻るという傾向が見えれば、掃除の回数を増やすより原因の確認が先です。体質、アレルギー、異物、寄生虫など複数の要因が関係することがあります。
耳を確認する時間そのものも、頻度の一部です。耳をめくって数秒見る、入口を指で触れてすぐ離す、という短い観察から始めます。異常がないときに毎回洗うのではなく、観察と洗浄を分けて考えると、必要なケアだけを選びやすくなります。
なお、片耳だけを何度も掃除する状況は、頻度の問題として片づけないようにします。左右で耳の形が少し違うことはありますが、いつも同じ側だけ湿る、汚れが増える、犬が片側だけかくという場合は、耳の奥に異物があるときにも見られます。家庭の記録を持って受診すれば、掃除を増やすべきか、別の確認が必要かを相談できます。観察は掃除の代替ではなく、次の判断を正確にするための材料です。
道具と洗浄液
家庭で用意するのは、獣医師に相談して選んだ犬用イヤークリーナー、柔らかなコットンまたはガーゼ、汚れてもよいタオル、ごほうびです。犬用イヤークリーナーには、耳垢を浮かせるもの、乾燥を助けるものなど製品ごとの特徴があります。すべての犬、すべての耳に同じ製品が合うとは限らないため、耳に赤みや痛みがある場合は先に診察を受けます。
洗浄液のボトルの先端を耳に触れさせないことも大切です。触れた先端をそのまま戻すと、耳の分泌物をボトルへ移す可能性があります。使う前にラベルの対象動物と用法を読み、開封後の保管方法や使用期限も確認します。人用の耳かき液、アルコール、精油、家庭にある消毒薬、自己判断の酢や油などを犬の耳へ入れるのは避けてください。鼓膜の状態が分からないと、刺激や成分の問題を判断できません。
コットンは繊維がまとまりやすく、指で扱える大きさにします。耳の入口をふさぐほど小さく丸めたり、奥へ押し込んだりしないようにします。ガーゼを使う場合も、指先に巻いて見える範囲を拭くためのものです。耳掃除用と称する細い器具でも、外耳道へ入れる目的のものは自己判断で使いません。綿棒は、汚れを奥へ押し込むことや、外耳道・鼓膜を傷つけることがあるため、奥の掃除には使わないでください。
洗浄液を使うか、コットンに含ませて入口を拭くかは、犬の反応と耳の状態で選びます。耳が痛そうな犬に液体を勢いよく入れると、強く抵抗することがあります。液体を入れる方法を動物病院で教わっていても、前回と様子が違う日は無理に続けません。洗浄は治療の代わりではなく、診察や処方薬が必要な耳に家庭の道具だけで対応するものでもありません。
洗浄液の香りや容器の硬さも、犬の受け入れやすさに影響します。冷たい液をいきなり入れず、手の中で室温になじませます。ただし、温めるために電子レンジや湯せんを使うのは避け、製品の保管条件を変えない範囲にします。ボトルを押す力を調整できない場合は、獣医師に別の形状を相談する方法もあります。道具を増やすことより、犬の耳と鼓膜の状態に合ったものを、清潔に扱うことが優先です。
手順
まず、床が滑らず、犬が逃げ込めない狭い場所ではない、落ち着いた環境を作ります。タオル、コットン、洗浄液、ごほうびを手元に置き、犬を押さえつける役と作業する役を分けられるなら、二人で行います。眠っている犬を突然起こして始めるのではなく、ボトルを見せる、耳介に手を添える、離してほめる、という順番で気持ちを整えます。
犬用洗浄液を耳へ入れる方法では、耳介の先ではなく付け根に近い部分をやさしく持ち、耳介を上へ引いて外耳道をできる範囲でまっすぐにします。ボトルの先端は耳に触れさせず、製品の説明や獣医師の指示に従って液を入れます。量も製品によって異なるため、少しだけという自己流にせず、耳道を満たす量が必要と説明された場合はその指示を守ります。
液を入れたら、耳の付け根、耳の穴より少し下の軟らかい部分を、指先で円を描くようにおよそ20〜30秒もみます。耳の中で液体が動く「くちゅくちゅ」という音がしても、慌てて中をこすりません。強く押す必要はなく、痛がったり体を引いたりしたら中止します。片耳ずつ行い、犬が落ち着いている範囲で進めます。
その後は犬に頭を振らせます。頭を振ることで、ゆるんだ分泌物と洗浄液が耳の入口へ移動しやすくなります。周囲に液が飛ぶことがあるため、タオルを敷いておくと片付けやすいでしょう。耳介の内側と入口に出てきた汚れを、コットンで押さえるように拭き取ります。指が届く範囲より奥へ入れず、コットンを取り出せる状態を保ちます。
最後に乾いたコットンで耳介と入口の余分な水分を取り、すぐにほめてごほうびを渡します。片耳を終えた時点で休憩しても構いません。両耳を一度に終わらせることより、犬が耳掃除を「痛いまま拘束される時間」と覚えないことが重要です。処方された点耳薬がある場合は、洗浄から投薬までの待ち時間も獣医師の指示に従います。

嫌がる犬への慣らし方
耳掃除を嫌がる犬に、いきなり洗浄液を入れて終わらせようとすると、次回はボトルを見ただけで逃げることがあります。まずは耳掃除をしない練習から始めます。犬がリラックスしているときに、肩や首を数秒なで、耳介の外側へ手を移し、すぐに離してごほうびを渡します。耳に触れた瞬間に身を引くなら、触る時間や場所を手前へ戻します。
練習は1回数秒からで構いません。耳介をめくる、入口を見る、付け根に指を置く、コットンを見せる、洗浄液のボトルを近くに置く、という刺激を分解します。それぞれで犬が落ち着いていられたら次へ進み、顔をそむける、舌なめずりをする、あくびを繰り返す、逃げようとするなどの反応が出たら距離を戻します。嫌がる合図は「反抗」ではなく、刺激が強いという情報です。
ごほうびは耳から離れた位置で渡します。片手で耳をつかんだまま口元へ食べ物を押しつけると、犬が身をよじって手に歯を当てることがあります。犬が自分で顔を向けられる位置に置き、触る、離す、ごほうび、という流れにします。食べ物に興味がない日は、散歩へ行く、好きなおもちゃで遊ぶなど、その犬にとって価値のある報酬を使います。
実際の洗浄は、両耳を完成させることを目標にしません。今日は耳介に触れるだけ、次回はコットンで入口を一度拭く、その次に液をボトルから出す音を聞かせる、という分け方もできます。犬が嫌がる前に終えると、次の練習を始めやすくなります。耳を強く押さえつけたり、二人がかりで動けなくしたりする方法は、作業を短く見せても恐怖を強めることがあります。
耳に痛みがあるときは、慣らし方の問題だけではありません。以前は触らせた犬が急に怒る、片耳だけ避ける、洗浄液の音で震えるという変化があれば、無理に練習を続けず診察を受けます。痛みを伴う耳へトレーニングを重ねると、耳に触られることへの警戒が強まるおそれがあります。安全に行えないと感じたら、家庭での掃除を中断し、病院で方法を相談します。
動物病院へ相談する目安
耳から強いにおいがする、耳介や入口が赤い、黒っぽい・黄色っぽい耳垢が増えた、犬が耳をかゆがる、何度も頭を振る、触ると痛がる、耳介が腫れているといった変化があるときは、耳掃除で様子を変えようとせず動物病院へ相談します。耳の異常は外耳炎のときにも見られますが、外からの見た目だけで病名や原因を決めることはできません。細菌、酵母様真菌、寄生虫、異物、アレルギーなど、必要な確認は一つではありません。
特に、頭を傾ける、まっすぐ歩きにくそう、ふらつく、吐く、顔の片側の動きが違う、急に強い痛みを示す、耳介が急に膨らむ、出血や膿のような液がある場合は、早めに動物病院へ連絡する目安です。耳の奥や平衡感覚に関わる部位まで問題が及んでいるときにも見られるため、家庭で洗浄を繰り返さないでください。夜間や休日は、地域の救急対応病院へ電話して受け入れ方法を確認します。
赤みや痛みがある耳に洗浄液を入れると、刺激で状態が変わることがあります。鼓膜に異常があるかどうかも、家庭では判断できません。診察では耳鏡で外耳道や鼓膜を確認したり、耳垢を顕微鏡で調べたりします。処方された点耳薬がある場合も、耳垢が多いからと別の市販洗浄液を追加する前に、併用の可否を確認します。人用の薬や、以前の犬に残った薬を使ってはいけません。
相談時は、いつから、左右どちらか、においの変化、耳垢の色と量、頭を振る頻度、シャンプーや水遊びの有無、使った製品を伝えると役立ちます。耳をこすって傷があるなら、その様子も写真に残します。すでに掃除した場合は、使った洗浄液の名前と回数を伝えます。見た目の汚れを写真で記録しても、診察の代わりにはなりませんが、変化を説明する材料になります。
「犬の耳が臭い」「耳をかゆがる」という変化は、掃除不足だけを示すとは限りません。においを消すために香りの強い製品を重ねたり、黒い耳垢を毎日こすり取ったりすると、原因の確認が遅れたり皮膚を刺激したりする可能性があります。受診を迷うときは、症状が出た時点で病院へ電話し、掃除をしてよいかを含めて相談します。
毛が多い犬種の扱い
耳の周りや外耳道に毛が多い犬では、毛が湿気や分泌物をとどめ、洗浄液や治療薬が届きにくくなることがあります。プードル、アメリカン・コッカー・スパニエル、シーズーなどでは、耳の毛量と耳の形、皮脂、過去の炎症を合わせて考えます。ただし、毛があることだけで不衛生と決めつける必要はありません。耳の健康な犬の毛を、見た目だけを理由に処理するかどうかは慎重に判断します。
耳毛を無理に抜くことについては、獣医師の間でも見解が分かれます。毛を抜くことで通気や薬の到達を助けられる場合がある一方、毛をつまんで繰り返し抜く刺激が、外耳道の皮膚を傷めたり炎症を起こしたりする可能性があります。特に、赤みや痛みがある耳で、家庭用の鉗子や毛抜きを使って深い毛を処理するのは避けます。耳毛を抜けば外耳炎を防げる、と一律には言えません。
処理が必要かどうかは、耳の状態を診た獣医師と相談します。慢性的な外耳炎で毛が治療の妨げになっている場合は、耳の周囲や耳介の内側をバリカンで短くするなど、抜く以外の方法が提案されることもあります。トリミングサロンへ依頼する場合も、耳の中の毛をどこまで扱うのか、炎症やにおいがある日は作業を控えるのかを事前に伝えます。サロンで処置を受けた後に赤みや痛みが出たら、店で続けて処理するのではなく病院へ相談します。
毛が多い犬の家庭ケアは、耳毛をゼロにすることではなく、観察できる状態を保つことです。耳介をめくって入口が見えるか、毛が湿っていないか、においが変わっていないかを確認します。見えない奥をはさみで切ろうとすると、犬の動きで皮膚を傷つける危険があります。はさみを耳の穴へ向けない、毛を強く引っ張らない、犬が嫌がったら中止する、という線引きを守ります。
耳掃除の目的は、耳を無菌にすることでも、耳垢を一片残らず取ることでもありません。犬の耳が本来持つ排出の仕組みを妨げず、必要なときだけ刺激を少なくして入口を清潔にすることです。観察で変化を見つけ、無理な自己処理をせず、必要なら動物病院とケアの頻度や毛の扱いを決める。その積み重ねが、犬にとって負担の少ない耳との付き合い方になります。
参考・出典
- How to Clean Your Dog’s Ears(MSD Veterinary Manual)
- Otitis Externa in Animals(MSD Veterinary Manual)
- Ear Cleaning and Administering Ear Medication in Dogs(VCA Animal Hospitals)
- Prevent swimmer’s ear(VCA Animal Hospitals)
- 犬の耳掃除は必要? 頻度・やり方のポイントを解説(アニコム損害保険)
- 外耳炎<犬>(アニコム損害保険)
- 耳のお手入れ<犬>(アニコム損害保険)
本記事は一般的な情報提供です。個々のペットの状況に合わせた判断は、かかりつけの動物病院や専門家にご相談ください。

