犬が吐いたとき、飼い主が見るべき5つのこと
ぐったりしている、呼吸が苦しそう、けいれんしている、意識がはっきりしないなどの場合は、このページを読み進めず、すぐに動物病院へ連絡してください。
この内容はまだ獣医師の監修を受けていません。参考情報としてご覧ください。
この記事の要点
犬が吐いたとき、落ち着いて見るべき順番があります。嘔吐と吐出の違い、吐いたものの色が示すこと、回数と時間帯の記録、歯ぐきの色や脱水の確かめ方、そして動物病院へ連絡する目安と受診前の準備までを順に整理しました。
吐き方の違いを見分ける
犬が食べたものを出すと、飼い主はまとめて「吐いた」と表現します。しかし獣医学では、胃や小腸の内容物を腹筋の力で押し出す嘔吐と、食道にとどまったものが力なく戻る吐出を分けて考えます。ここを取り違えると、記録する内容も原因を探す方向も変わります。
嘔吐の前には、落ち着かず歩き回る、よだれが増える、舌をなめる、首を伸ばすといった吐き気のサインが出ることがあります。その後、背中を丸めたり、腹部と胸郭を大きく収縮させたりして、何度か「オエッ」と力むのが典型的な流れです。出てくるものは、胃で混ざった食べ物や液体で、消化の程度や胆汁の有無にも幅があります。原因は胃腸の刺激だけとは限らず、異物、膵臓・肝臓・腎臓の病気、感染、薬物や毒物なども候補になります。
一方の吐出は、予告のような吐き気や腹圧が目立たず、食後まもなく、口からぽろりと落ちるように出ることがあります。未消化のフードがそのまま残り、食道の形を反映して細長い筒状に見えることもあります。食道の動きや通過に関係する問題のときにも見られ、咳や呼吸のしづらさを伴う場合は、吐いたものが気道に入ることにも注意が必要です。
見分けるコツは、床に残った内容物だけで判断せず、直前の動画や様子を思い出すことです。腹部が波打ったか、何度えずいたか、首を下げて受け身に出したかを、短い言葉でメモします。スマートフォンで撮影できる状況なら、犬を刺激しない距離から動画を残すと、診察時に役立つことがあります。嘔吐か吐出かを家庭で確定する必要はありません。どちらだったか分からないという情報も、獣医師が質問を組み立てる材料になります。
たとえば、食後すぐに細長いフードが一度出て、犬がその後も普通に呼吸しているなら、嘔吐らしい腹部の動作があったかを確認します。反対に、何度も腹部を収縮させ、よだれが増え、出た後も苦しそうなら、内容物が少なくても嘔吐として経過を詳しく伝えます。咳き込んだ直後に口から出た場合は、消化器だけでなく呼吸器や食道の情報も必要になります。見た目が似ていても、起きる直前の動作が手がかりになります。
「犬が吐く」現象を一つの症状として片づけず、出るまでの動作と出た後の状態を分けて観察しましょう。吐いたものの分析だけで病名が決まるわけではなく、年齢、持病、食事、排便、身体検査や画像検査を合わせて考えるものです。
吐物の色と内容を確認する
吐物は、色だけで原因を決められるものではありません。ただし、透明か、泡立っているか、黄色いか、血液らしいものがあるかは、電話相談や受診時に伝える価値のある観察点です。照明で色が変わるため、可能なら白い紙や床を背景に写真を撮り、量と一緒に記録します。
透明な液体や水っぽいものは、飲んだ水や胃液に見えることがあります。白い泡は、胃液や唾液が空気と混ざった状態として現れる場合がありますが、白い泡だから軽いとは限りません。空腹、胃腸の刺激、吐き気のさまざまな場面で見られるため、泡の色よりも、何回続いたか、腹痛や元気の変化があるかを優先して見ます。
黄色から黄緑色の液体は、胆汁が混ざった可能性があります。食事から時間が空いた後に出ることもありますが、胆汁が見えたことだけで原因を特定することはできません。食後にも繰り返す、食欲が落ちる、下痢や腹部の不快感を伴うといった変化があれば、時間帯の情報とともに相談します。
茶色い内容物は、フードや土、便に似たものが混ざってそう見えることがあります。赤い筋や鮮やかな赤色は、口の中や食道、胃などからの出血が含まれる可能性があります。暗赤色から黒褐色で、湿ったコーヒーかすのような粒が目立つ場合は、消化された血液の見え方の一つとして説明されます。血液らしいものがある場合は、量が少なく見えても、写真を撮って動物病院へ連絡する材料にしてください。
草、毛、フードの粒、包装の切れ端などが混じっていたら、無理に洗い流さず、手袋や袋を使って少量を保存すると確認に役立つ場合があります。異物が見えなくても、体内に残っていないとは言えません。ひもや布の一部だけが出ているときに引っ張るのは避けます。口や消化管を傷つけたり、内部に引っかかった部分を動かしたりするおそれがあるためです。
吐物の観察は、色見本の当てはめではなく、診察につなぐための記録です。色、量、固形物、におい、血液らしさ、写真の5項目を残し、「いつの食事が出たか」も添えましょう。
写真を撮るときは、吐物のそばに硬貨やティースプーンなど大きさの分かる物を置く方法があります。ただし、犬が吐き続けている最中に撮影を優先したり、口の中へ手を入れて確認したりしないでください。写真が撮れなければ、色を「薄い黄色」「赤い筋が数本」「黒い粒状」など言葉で表すだけでも役に立ちます。見たものを誇張せず、分からないものは「判断できない」と書くことが大切です。

回数と間隔を時系列で記録する
一度だけで終わるのか、短い間隔で何度も繰り返すのかは、受診の判断に関係する情報です。「朝に吐いた」だけでなく、午前6時10分に少量、6時25分に泡、7時に水を飲んだ後に再度、というように時刻を並べると、獣医師が経過を把握しやすくなります。回数を数えるときは、吐こうとして何も出なかった「空えずき」も別に記録します。
食事との関係も重要です。食べて数分から数十分で未消化の粒が出たのか、数時間後にどろっとした内容物が出たのか、空腹の明け方に黄色や白い泡が出たのかで、考える手がかりが変わります。食器を置いた時刻、食べた量、早食いの有無、散歩や激しい運動の時刻、水を飲んだ時刻を簡単に並べてください。フードを変えた日、おやつを増やした日、ごみ箱に近づいた可能性も同じ欄に書きます。
空腹時間が長い明け方に、黄色い液体や泡を繰り返す犬もいます。このパターンがあるときに、食事の回数や時間を変える案が話題になることはありますが、同じ見え方が異物や別の消化器の問題で起きる可能性もあります。自己判断で食事を極端に減らしたり、深夜に大量のフードを与えたりせず、頻度、体重、便、食欲の推移を持って相談します。
反対に、食べてもすぐ出る、飲水のたびに出る、数時間のうちに何度も出る、翌日以降も続くといった経過は、脱水や電解質の乱れにつながることがあります。1日に何回なら受診不要という一律の線引きはありません。犬の大きさ、年齢、持病、吐物の内容、ほかの症状を合わせて判断する必要があります。特に、回数が増えているのに犬が水を飲めない、または飲んでも吐くときは、早めに動物病院へ連絡します。
記録は完璧でなくて構いません。時計の表示、食器の写真、吐物の写真、便の状態、普段との違いを一つのメモに集めるだけで、曖昧な記憶より具体的な情報になります。多頭飼育なら、誰が吐いたかを分け、食事や排便も個体別に確認してください。
間隔を見るときは、吐いた回数を一日単位でまとめるだけでなく、最初の嘔吐から次の嘔吐までの分数も残します。短時間に集中しているのか、数時間おきに続いているのかで、犬に与えられる休息や水分の状況が違います。夜間に記録するときは、スマートフォンのメモに時刻だけ先に入力し、朝に内容を追記する方法でも構いません。記憶を頼りに「何度も」と書くより、少なくとも「3回」「空えずき2回」と数える方が診察に使いやすい情報になります。
吐く以外の変化も見る
吐いた回数が少なくても、犬全体の状態が崩れているときは急いだ相談が必要です。まず、呼びかけに反応するか、立って歩けるか、いつもの場所で休めるかを見ます。食欲は「完食した・半分だけ・匂いを嗅いで食べない」、飲水は「普段より多い・少ない・飲むと吐く」のように、量ではなく変化で記録します。下痢、黒い便、便が出ない、排便姿勢だけ取るといった便の変化も重要です。
腹部は、普段と比べて張っていないか、急に大きくなっていないかを目で確認します。強く押したり、痛がる場所を探して何度も触ったりしないでください。落ち着かず姿勢を変える、祈るように前肢を伸ばして胸を床につける、背中を丸める、触られるのを嫌がるといった様子は、腹部の不快感や痛みのときにも見られます。
歯茎の色も手がかりです。唇を無理なくめくり、通常のピンク色と比べます。白っぽい、灰色、青紫、黄色っぽいなど明らかな変化があれば、吐いたことと一緒に動物病院へ連絡します。歯茎を強く押さえつける必要はありません。呼吸が苦しそう、舌が紫色、反応が鈍い、倒れる場合は家庭での測定を続けず、緊急の連絡を優先します。
脱水の目安として、皮膚テントとCRTを確認する方法があります。皮膚テントは次の手順です。
- 犬が静かにしているとき、肩甲骨のあたりの皮膚を、痛くない強さでつまみます。
- つまんだ皮膚をすぐ放し、元の位置へ戻る速さを見ます。
- 戻りが遅い、テントのように皮膚が残る、口の中が乾いているなどがないか、普段と比べます。
皮膚の弾力は年齢、体格、痩せ具合、皮膚の状態でも変わるため、皮膚テントだけで脱水の有無を決められません。CRT(毛細血管再充満時間)は、歯茎を指で軽く押して色を一時的に白くし、指を離してピンク色に戻るまでを観察します。一般に1〜2秒程度が目安とされますが、照明や歯茎の色で見えにくいことがあります。2秒を超えて戻りが遅い、歯茎が白い、脈が弱そう、呼吸が速いなどが重なるときは、すぐに相談してください。
確認は犬が嫌がらない範囲で一度だけにし、歯茎を押すために口をこじ開けないでください。黒い色素がある歯茎では、色の変化が読める部分を探しますが、判断が難しければ測定を繰り返すより病院へ状況を伝えます。子犬や高齢犬は皮膚の戻り方が普段から異なることがあり、暑さ、運動直後、強い緊張でも呼吸や歯茎の見え方は変わります。普段の安静時の歯茎の色を写真で知っておくと、急な変化を伝えやすくなります。

動物病院へ連絡する目安
次の状態がある場合は、原因を家庭で推測するより先に、かかりつけまたは夜間救急の動物病院へ電話してください。電話では「吐いた回数」だけでなく、到着までの指示と受け入れ可否を確認します。
- ぐったりして反応が鈍い、立てない、倒れた、呼吸が苦しそう
- 歯茎が白い、青紫、灰色、またはCRTの戻りが明らかに遅い
- 血液らしい吐物、コーヒーかす様の吐物、黒い便がある
- 腹部が急に膨れ、落ち着かず、よだれを流し、何度も吐こうとするのに出ない
- 強い腹痛、繰り返す空えずき、水も保てない状態がある
特に大型犬や胸の深い犬で、腹部の膨満と空えずきが組み合わさるときは、胃拡張胃捻転(GDV)も鑑別に入ります。胃にガスや液体がたまり、胃がねじれることがある緊急性の高い状態です。グレート・デーン、ドーベルマン、ジャーマン・シェパード、ワイマラナー、セント・バーナードなどで知られますが、どの犬にも起こり得ます。お腹をたたいて音を確かめようとせず、移動の準備をしながら連絡してください。
誤飲や拾い食い、中毒の可能性があるときも、症状が出るまで待たず相談します。危険なものには、ひも状異物、ボタン電池、キシリトール、チョコレート、ぶどう・レーズン、玉ねぎが含まれます。ひもは腸を傷つける異物になり得て、ボタン電池は消化管を傷める危険があります。キシリトールは血糖値の低下や肝臓への影響、チョコレートは神経や心臓への影響、ぶどう・レーズンは腎臓への影響、玉ねぎは赤血球への影響が問題になることがあります。量や製品、犬の体重で危険度は変わるため、食べた物の名前と量を伝えます。
子犬、老犬、妊娠中の犬、腎臓病・心臓病・糖尿病などの持病がある犬、服薬中の犬は、少ない嘔吐でも水分や体力の変化が大きくなる場合があります。年齢や持病があることを最初の電話で伝えてください。受診先を迷う時間が長くならないよう、普段から診療時間外の連絡先も控えておくと安心です。
嘔吐が止まったように見えても、吐いた後に元気が戻らない、食べ物や水を受け付けない、排便が途切れた、体が震えるといった変化があれば連絡します。電話では、緊急来院か、まず診療時間内の受診かを病院側が判断できるよう、今の呼吸、意識、腹部の状態を簡潔に伝えます。移動に時間がかかる地域では、紹介先や夜間施設までの所要時間も伝えると、指示が具体的になることがあります。
受診前の準備と避けたい対応
電話や受診の前に、吐物の写真、動画、時系列メモを用意します。食べた可能性がある物の包装、成分表示、薬の容器、植物の写真も重要です。異物や食品の残りがあれば、密閉できる袋や容器に入れて持参します。量が分からないときは「袋の何割」「個包装が何個」など、分かる範囲で構いません。吐物を素手で扱わず、子どもやほかの動物が触れない場所に置きます。
家庭で吐かせようとするのは避けてください。塩や油、指を喉に入れることなどは、誤嚥、食道の損傷、塩分による問題につながるおそれがあります。漂白剤などの刺激性・腐食性物質や、尖った異物、ひも状異物を飲んだ場合は、吐かせることで傷が広がる可能性もあります。吐かせる処置を含め、何をするかは食べた物と時間、犬の状態を見た獣医師に判断してもらいます。
水や食事についても、自己判断で長時間の絶食・絶水を続けないでください。嘔吐の後に大量の水を一気に飲ませると、再び吐くことがありますが、だからといって水を完全に取り上げると脱水を悪化させる可能性があります。反対に、腸閉塞やGDVなどが疑われる状況で食べさせることが適切とは限りません。受診先へ連絡し、犬の年齢、体重、持病、吐いた回数を伝えたうえで、飲食の指示を受けます。
人用の胃腸薬、鎮痛薬、制吐薬、市販のサプリメントを与えないでください。犬に使える薬でも、体重、脱水、腎臓や肝臓の状態、ほかの薬との組み合わせで扱いが変わります。特に人用の鎮痛薬などは犬に有害となることがあります。すでに何か与えた場合は、薬の名前、量、時刻を隠さず伝えます。
車で向かうときは、吐いたものを拭くタオル、記録、現物、リード、キャリーを準備し、ぐったりしている犬を歩かせ続けないようにします。病院へ向かう途中も、腹部の張り、呼吸、反応を観察します。状態が急に変わったら、到着前に電話で知らせてください。
受診前に、いつものフードやおやつを追加で持っていく必要があるかは病院に確認します。検査や処置の前に食べさせると、診療の妨げになる場合があります。自己判断で「胃を休ませるため」と長時間食べさせないことも、犬の状態によっては負担になります。家庭でできる準備は、食事を工夫することより、情報と現物をそろえ、連絡先の指示に従える状態にすることです。
診察を早める時系列メモ
診察室では、獣医師が「いつから、何回、何を食べ、何が変わったか」を確認します。飼い主が原因を当てる必要はありません。事実を時系列で渡すと、診察や検査の優先順位を決める助けになります。次のテンプレートをスマートフォンのメモに作っておくと便利です。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 犬の基本情報 | 6歳、柴犬、体重12kg、避妊済み |
| 最後に元気だった時刻 | 9月6日 18:00、散歩で普段どおり |
| 食事と水 | 18:30にドライフード120g、20:00に水を多めに飲んだ |
| 吐いた時刻と回数 | 20:25に1回、21:10に1回。2回目は白い泡 |
| 吐く動作 | よだれと腹部の収縮があり、数回えずいた |
| 便と尿 | 夕方に通常便、尿はいつもどおり。以降は未確認 |
| ほかのサイン | 元気はやや低下、腹部の張りは見た目では不明 |
| 誤飲の可能性 | 台所のごみ袋に近づいた。チョコレート包装を発見 |
| 服薬・持病 | 皮膚の薬を朝に服用、持病なし |
「元気」は主観的になりやすいため、具体的な行動で書き換えます。たとえば「名前を呼ぶと顔を上げる」「階段を上がらない」「おやつを見ても来ない」「横になったまま」といった表現です。食欲も、普段の何割を食べたか、食器に口をつけたか、水を飲んだ直後に戻したかを分けます。
吐出が疑われるときは、食べてから何分後か、未消化の形だったか、咳や呼吸音の変化があったかを追加します。嘔吐が疑われるときは、吐き気の前兆、腹部の力み、空えずき、吐いた後の姿勢を記録します。便が出ていない場合も、最後に正常な便をした時刻を書きます。
診察では、問診に加えて腹部や口の検査、血液・尿・便の検査、レントゲンや超音波検査が必要になることがあります。異物や中毒は、吐物が見えないから否定できるものではありません。記録は検査を代わりにするものではなく、限られた時間で状況を正確に共有するための道具です。
犬が吐いたとき、最初にすることは「大丈夫」と決めることでも、最悪の原因を断定することでもありません。吐き方、内容、時間、全身状態、誤飲の可能性を順に観察し、緊急サインがあれば早めに動物病院へ連絡する。その落ち着いた手順が、犬の状態を伝える力になります。
参考・出典
- 犬の嘔吐(Merck Veterinary Manual・2024年更新)
- The Digestive System in Animals(Merck Veterinary Manual)
- Bloat: Gastric Dilatation and Volvulus in Dogs(VCA Animal Hospitals・2024年)
- Toxic Household Hazards for Dogs(VCA Animal Hospitals)
- ペットフード安全法 製造に関するQ&A(農林水産省)
- Initial Triage and Resuscitation of Small Animal Emergency Patients(Merck Veterinary Manual・2025年更新)
本記事の情報は一般的な情報提供であり、診断・治療を目的としたものではありません。個々の状態については、かかりつけの動物病院にご相談ください。

